EFEK RUMAH KACA "Rimpang"

EFEK RUMAH KACA "Rimpang"

販売価格: 1,700(税込)

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商品詳細

この掌から こぼれ落ち
この体から 剥奪さるとも
「のぞみ」 だけは手放さない
なにほど頼もしげなしとて
いきどほりを養分とし
秘めやかに
忍び
育み 
伸ばし
隔たりなく繋がり
幾重にも結ぶべし
ややありて
思ひもよらぬ ところより
思ひもよらぬ さまとなりて
蹂躙されし大地 つき破り
うちいづ
その日まで


2020年に『Jalan Enam Tiga』EPを挟んではいるが、『Synesthesia』(2015年)リリース後の2016年から約7年の歳月をかけて制作されたのが4枚目のフル・アルバムとなる本作『Rimpang』。

00年代前半から活動を開始、Cholil Mahmud(ボーカル、ギター) 、Adrian Yunan Faisal(ベース)、Akbar Bagus Sudibyo(ドラムス) のトリオ編成として3枚のフルアルバムをリリースし、インディ・ポップ界で知らぬ者はいない存在となったEFEK RUMAH KACA。けれども、2016年にのAdrian Yunan Faisalが視力を失ったことを理由に脱退。後任としてPANDAI BESIなどで以前から付き合いのあったPoppie Airil(ベース)、そしてI KNOW YOU WELL MISS CLARAなどの活動で知られるジャズ/フュージョン系マルチ奏者のReza Ryan(ギター)が加わり、バンドは初のカルテット編成となった。ところが、Cholil Mahmudが渡米したことで、メンバー同士がオンラインでのコミュニケーション、そして時にはアメリカとインドネシアを行き来しながらという、これまでにないアルバム制作過程となった。
どうやら『Rimpang』は、プログレ・ファンをも惹きつけるような2015年の大作『Synesthesia』とは一転、シンプルなオルタナティヴ・ポップに回帰すべく制作を進めていたらしい。メイン・ソングライターのCholil Mahmudによれば、アルバムの原型は初期2作である『Efek Rumah Kaca』や『Kamar Gelap』のようなシンプルさに似通っていたと言う。ところが新メンバーPoppie Airil(ベース)、Reza Ryan(ギター)のアイデアが加算されたことで、最終的にはこれまでのEFEK RUMAH KACAでは足を踏み入れなかった領域までその音楽性を広げることができたのだとか。
紛うことなきCholil Mahmud印の無垢の骨子を下地にした巧みな装飾、そして古風と今風が調合された『Rimpang』は、新メンバーが持ち込んだ新たなエッセンスはもちろんのことだろうが、同じことの繰り返しでアルバムを作らないという意向を持つバンドであることと、実験的な要素の強かった『Synesthesia』を通過したからこそ到達した領域といえる。それをどこまで広げてもCholil Mahmudの、否、EFEK RUMAH KACAとしての色合いは薄まりも濁りもしないというベテランならではの到達点(実際には通過点)ということだ。

ドリーミーでレトロ・フューチャー感のある「Fun Kaya Fun」で始まり、Cholil Mahmudが妻と子供に向けた歌詞を書き、息子がトランペットで参加した「Manifesto」で締めくくる『Rimpang』の大半はとても穏やかで温かみがある楽曲だ。しかし、だからといってその真の部分も同様だろうか。
1stアルバムの頃から社会的で政治的な意識を多分に含んだ歌詞というのもEFEK RUMAH KACAの特徴の一つだ。
2019年9月に刑法改正や汚職撲滅委員会(KPK)の活動を制限するような法改正に反対する大規模なデモに積極的に参加したCholil Mahmudの姿勢は本作でも変わらない。
人権侵害、不正、そして政府の対応に失望しジャカルタの宮殿(Istana Negara)前で2011年12月に抗議の焼身自殺を行ったブンカルノ大学生Sondang Hutagalungを追悼する「Sondang」。
国民を混乱させるような政策ばかりを立案する為政者は、国民の安全のために何もせず眠り続けてくださいという「Tetaplah Terlelap」。
規制し思考力を奪われ我々を、ただじっとご主人様からの命令を待ち、指示に従うだけの家畜に例えた「Ternak Digembala」。
テクノロジーの進歩を手放しで喜ばず、未来を憂う「Fun Kaya Fun」。
メディアでは、英雄か救世主気取りで言葉巧みに振る舞うも、裏から操られていただけのその人物には自己の利益だけが透けて見えるという「Heroik」。
そして、まるでYockie Suryoprayogoのようだと言われるシンセ・ソロが聞けるアルバム・タイトル曲「Rimpan」。こちらはフランスのジル・ドゥルーズ(哲学者)とフェリックス・ガタリ(哲学者、精神分析家)の共著『千のプラトー―資本主義と分裂症』で語られる“リゾーム(地下茎/根茎)”という概念を借用し、インドネシア語で同意の“Rimpang”に変換。上下や優劣のある抑圧された社会で「地下で静かに広がり、階層のないネットワークを作りながら成長し続けていく」抵抗を草の根的に活動している者たちになぞらえて使用したのだとか。
ヒップホップ・ユニットHOMICIDEとして名を馳せたラッパーMorgue Vanguardを起用した「Bersemi Sekebun」では、これまでの抗議活動を振り返りながら、“勝てない戦い。讃えられない勝利もある。敗北の連続でも今しばらくは耐え忍べ。気高さを保ち、雑草の如くたくましく自生しよう”と厳かに語りかけてくる。

一部だけを簡単に拾ってみても、彼らの歌詞は社会的なものから政治批判、内省的なものまでいずれも痛烈なメッセージ性が込められている。となると、温柔でポップな曲調と乖離しているように思えて戸惑うかもしれない。しかし、その歌詞はインドネシアの大衆と密接に関係しているのだから、ある意味、これもまた大衆音楽/ポピュラー・ミュージックとみなせる。
さらに言うならば、伝えようとしているのは絶望や諦めではなく、ましてや憎しみでもない。気付きであり声援、そして希望。怒号を飛ばし力に訴えるのではなく、静かに、けれどもしっかりと大衆へ繋げ広げていくこと。そこに『Rimpan(地下茎/根茎)』の堅固さと温もりに満ちた希望があるのだ。

活動歴20年を超えるベテランとしての趣を漂わせながらも作品毎に変化する姿を見せるEFEK RUMAH KACA。自己を根茎として潜在的に自在に伸ばし、異質なものと交わり、触発されて以前とは別の状態になったところで作品として顔を出す。俗界を見つめ寄り添い続ける彼らにとって『Rimpang』はその一つの結果であり、次なる変化の過程、進行状態の一瞬を捉えたもの。絶えず変容していく生成変化そのものを体現しているのかもしれない。


2023年発表

収録曲
01.Fun Kaya Fun(Feat. Suraa) 4:52
02.Bergeming) 4:20
03.Heroik 4:18
04.Tetaplah Terlelap 4:09
05.Sondang 4:44
06.Kita Yang Purba 4:51
07.Ternak Digembala 5:04
08.Rimpang 3:44
09.Bersemi Sekebun(Feat. Morgue Vanguard) 4:40
10.Manifesto 4:21

サンプルは「Bersemi Sekebun」のMV。

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